- 蛍
- 2014年06月08日
黄昏 作:島崎藤村
つと立ちよれば垣根には
露草の花さきにけり
さまよひくれば夕雲や
これぞこひしき門辺なる
瓦の屋根に鳥啼き
鳥帰りて日は暮れぬ
おとずれもせず去にもせで
蛍と共にここをあちこち
季節は巡り、梅雨に入りました。
「梅雨」の名の通りに、春に綺麗な桃色の花を咲かせていた沢山の梅の木には鈴なりに小さな小梅がなり、熟した物は地面に落ち始めています。
そんな梅雨に入ったばかりの時分は、まだ涼しくて気持ちの良い日もあります。
それでも雨が降り始める頃になると、この季節ならではの「生き物」が登場します。
小さいけれど、淡く光って無数に飛び回る生き物「蛍」です。
子供の頃はこの季節に「はい。お土産」と、虫籠いっぱいの蛍を夏になると良く頂いた思い出があります。
この「蛍」を部屋いっぱいに広げて吊るした蚊帳の中で一斉に放って、お布団の上にごろんとして、ずっと眺めるのが毎年とても楽しみでした。
蚊帳の中をふわりと飛んだり、あちこちに留って光るのを眺めながら、いつのまにか眠ってしまっていた事をよく覚えています。
翌朝目が覚めると、蚊帳の中で一晩一緒に過ごした蛍達を「ありがとう、またね!」と放ってあげました。
今思うと、随分とロマンチックな時間だったな・・と思います。
ここ島崎藤村の生まれた馬籠宿には綺麗な沢の清流「島田川」が流れています。
島田川では源氏ボタルの成長を大切に見守って育んでいらっしゃる方々がみえます。
源氏ボタルは幼虫期を渓流で過ごすので、この地は源氏ボタルの生育に適している様です。
源氏ボタルにはひとつ面白い事があります。
それは「発光」の仕方です。
源氏ボタルは何故か???日本列島を二つに分けるフォッサマグナを境にして西側は2秒、東側は4秒感覚で光る、という発光の仕方をするという事です。
そしてその中間に位置する場所では中間の3秒感覚で光るタイプもいる、というのでちょっと驚きです。
さてさて、馬籠宿の源氏ボタルは何秒タイプなのかな?と妙に気になるので今年は注意して見てみよう、と思っています。
島崎藤村の作品にも「蛍」が登場する作品があります。
「千曲川のスケッチ」「春」「黄昏」等豊かな自然が残っていた明治時代の様子を、祭り、蛙、川、等の夏を感じさせる描写と共に「蛍」は作品中に書き込まれています。
中でも「黄昏」は勢いのある夏の季節にあっても、短く萌え尽きる命の儚さと尊さを記している様に感じます。
自身の放浪時代の「たった一人」の時間の中で、限られた時の中の命を生きる時に、過去と未来が出会う「黄昏」の様な「今」という瞬間を己を導く光と共に迷いながら進み行く・・・
クリスチャンであった藤村らしい信仰心を「蛍」の光に例えた作品の様に思います。
コラムニスト:とざそし まき

