馬籠宿の観光の際のお食事、軽食、お土産は馬籠館へお越しください。駐車場完備。

藤村ドキドキ コラム

雪の日の遠い日の思い出
2014年12月05日
馬籠宿の中を通る中山道を歩き、かつて江戸時代の高札場があったその先は恵那山麓がぐるっと見渡せる展望台になっています。 冬の雪景色の恵那山が夕日に染まる頃はどこか心に残る深い景色が眼前に広がってゆきます。   しばしば大寒波が来ると、冬の馬籠宿は雪景色の宿場町になります。 さてそんな雪の日は、旧中山道添いの昔風の作りの木の家はさぞ寒い・・・と思いきや、寒いには寒いのですが、暖の火を入れると家全体がほのかなぬくもりに包まれてゆき、心地よいものです。   今でこそ、物流の行き来が途絶えた「歴史街道、旧中山道」ですが、江戸時代から明治初めの頃までは、人。物、家畜、最新情報が江戸、東京と京都の間を行き交っていた当時の「日本の大動脈」であった場所です。 明治に入り15年〜20年程の時代、まだ旧中山道が木曽川沿いに新しく開通した国道19号線にその役目を譲る前、そんな時代の馬籠宿を島崎藤村は晩年のエッセイ「雪の障子」の中で雪の日になると思い出す、と書き記しています。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 雪の障子 島崎藤村 1940年3月執筆 めずらしいものが降った。旧冬十一月からことしの正月末へかけて、こんな冬季の乾燥が続きに続いたら、今に飲料水にも事欠くであろうと言われ、雨一滴来ない庭の土は灰の塊のごとく、草木もほとほと枯れ死ぬかと思われた後だけに、この雪はめずらしい。長く待ち受けたものが漸くのことで町を埋めに来て呉れたという気もする。この雪が来た晩の静かさ、戸の外はひっそりとして音一つしなかった。あれは降り積もるものに潜む静かさで、ただの静かさでもなかった。いきぐるしいほど乾き切ったこの町中へ生気をそそぎ入れるような静かさであった。 にわかに北の障子も明るい。雪が来て部屋々々の隅にある暗さを追い出したかのよう。こんなものが降ったというだけでも、何がなしにうれしいところを見ると、いくつになってもわたしなぞはまだ雪の子供だと見える。麻布飯倉に住んだ頃は界隈が岡の地勢であったから、あの辺の町中にはかなり勾配の急な傾斜があった。山国に生れたわたしは、雪が来ると自分の幼い日のことを思い出し、谷底にあったような旧い住居を出ては、よくあの植木坂へ氷滑りに走り出た。 降ったばかりの雪は冷たいようで、実は暖かい。それを踏めば歓びが湧く。わたしの郷里はそれほど雪の深い山里でもないのだが、それでも家の前の旧い街道は毎年のように白い雪道に変ったものだ。革のむなび、麻の蠅はらい、紋のついた腹掛から、たてがみ、尻尾まで雪に濡れながら荷馬の往来したのも、あの道だ。古いわたしの家に生れたものは、祖父も、父も、みな往時旅人の送り迎えに従事した人達であったから、雪が来るたびにわたしはいろいろなことを思い出す。そしてあの山間の雪道を踏んで働いた遠い祖先の方にまで心をさそわれる。 雪の中にはいろいろなものが隠れている。ちょっと思い出して見たばかりでも、幻のように立つ像は数え切れないほどある。あるものは血をもって雪を染め、あるものは深い雪の中に坐りつくした。 雪中の動きこそ、昔の人達がいろいろさまざまな形でわたしたちに教えて見せて呉れた生命表現のおもしろさではある。あの不死の鳥のような鷺娘の濃情が古い舞踊の一つとして今日まで残り伝えられているというのも、雪中の動きからだ。眼に入る冬の牡丹花に千鳥の啼き声をききつけ、寒苦の思いを雪のほととぎすにまで持って行った古人の想像は、やはりこの消息を語っている。 亡き川越の老母がまだ娘ざかりの頃、松雪庵という茶の師匠の内弟子として、あるところへ茶を立てに行ったという雪の夜の話はわたしの家に残っている。この師匠の前身は十年も諸国行脚の旅に送った尼僧であったそうだが、茶人として松雪庵を継いでからも、生涯つつましく暮して居られた婦人のようで、雪の夜にも炉の火の絶えない知人の許へ茶を立てに行くことを年若な弟子に命じたものであったという。髪を銀杏返しか何かに結い、昔風の質素な風俗で、白い綿のようなやつがしきりに降って来る中を急いで行った時の人は、おそらく熱い風雅の思いに足袋の濡れるのをも忘れたであろう。まだ若いさかりの娘の足は、おそらく踏んで行く夜の雪のために燃えたであろう。
応/\と言へど叩くや雪の門
まさに、この境地だ。過去にはこんな人達もあった。   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 冬の雪の日に馬籠宿を訪れる機会があれば、古の人々の事を想像する時に人と共に働いた木曽馬の栗毛色の毛並みや「牛方衆」の飼っていた荷役の為の牛の黒い色、そうした生き物や手押し車、その時代の若い女の息吹、まだ侍を捨てきれない者、・・・そんな人や物、当時の出来事まで思い描きながら、馬籠散策をされてはいかがでしょうか? 藤村のこの小さなエッセイは、そんなあんなを考えながらの冬の馬籠散策のちょっとしたミニガイドになるのではないかと思います。 作:とざそし まき  DSC01019

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